二十年ぐらい前のことですが、ある先生から頼まれて中学生に職業体験の場を用意したことがあります。
親しくしていた教育委員会の先生からの要請もあり、ある中学校の先生が職業体験の場がひと組だけ準備できず困り果てているということでした。断れない関係でしたので、その中学校の先生に電話をし、その中学校へ行き、その中学生三人組とも話をしました。
ソフト開発の現場を見たいというのがその三人組の希望でした。
当時、私は学校の教室で使う教育ソフト(今でいうコンテンツですね)、職員室で使うシステムの開発をしていましたので、この分野の話を三人組に少ししたのですが、面白くなさそうな雰囲気です。話していくと、本当はゲーム作りの現場を見たいと思っていて、当時のゲームソフト会社に次から次へと電話をして断られ続け…という状態だとわかりました。
今もこの種の職業教育の活動は社会科見学のような雰囲気にとどまっていて、本質的なことは何もわからないことがあるものですが、この三人組を私の会社に連れて行っても社会科見学になってつまらないだろうなと思いました。
三人組には開発を一緒にしているパートナー企業に連れて行きました。一匹狼のような方々が集まっているところなのですが、教育分野のほかに、同じフロアの中でゲーム分野もやっていましたので、彼らはそれに気づいた時、ものすごくうれしそうな顔をしたのを覚えています。
ソフトウェアで教育とゲームは実は切っても切れない共通点があります。これに関しては書き出すと大変な量になりますので、今回はしませんが、利用者をのめり込ませるのは共通の課題なのです。
その現場で様々な役割を担っている人に話をしてもらいました。
・大事なことは欧米が進んでいるので、英語はできなければ仕事にならない。言われなくても、英語力をみがいて欧米の資料、論文、雑誌を読みあさるのは必須。
・ゲームは論理のかたまり。日本語と違い、英語は論理的なことが得意な言語。英語ができなければ、素質はない。
・言葉と相手の感情がわからないとゲームを作る素質はない。
こんな話をどの人も言葉は違いますが、されていました。全員が世間でいうところの超難関大学の出身者ばかりでした。勢いがある分野には学力の優秀者が集まります。
最後の発言のところは入試でも大事な他者理会という概念です。
終わってから感想を聞いたのですが、ひとりがこう言いました。
本気だった。
自分に対して、本気で向き合って話をしてくれたと感じたようです。いい顔で「本気だった」という感想を話していました。
この本気の部分を子供に伝えられなければいけないと思うのですが、この部分は実は一番伝えるのに最適な人がいます。
保護者のみなさんです。
時には子供に対して、自分の職業の厳しさ、大変さを思う存分話してあげてほしいと思います。本気で仕事に向き合っているというのが大前提ですが、子供に語ることができる仕事について、一度、ふりかえり、整理をしてみていただきたいと思います。
親として何を伝えるか。
職業観を育てる力を持っているのはみじかな保護者のみなさんです。